いろんな場所へ取材に!:公益事業(るんびにい美術館)
今回は公益事業(るんびにい美術館)です。今回の話題は・・・
るんびにい美術館は、知的障害のある作者の美術作品を展示する場として知られています。
しかし実際には、年に4本ほど開催する展覧会のうち1〜2本は、それとはちょっと異なるテーマになっています。
(企画展「えぇ街やで、ここは。」の会場、ギャラリーになんとコタツ。ほんとに入れるんですよ。電気入ってます。)
たとえば開催中の企画展「えぇ街やで、ここは。」もそんな展覧会の一つ。(2/26まで。)
展示内容は、大阪市西成区にある日本最大の「ドヤ街」、通称釜ヶ崎と呼ばれる街で誕生した表現活動を紹介しています。
元日雇い労働者や元ホームレスのおじさん達、そして学生や旅人や研究者や近所の人など、あらゆる人が参加する「釜ヶ崎芸術大学」という取り組みです。
こうした展覧会の企画で、スタッフは様々な場所を取材に訪れます。
釜ヶ崎にも行ってきましたよ。
釜ヶ崎のメインストリート、動物園前駅商店街。
ホームレスの方たちにおにぎりとお茶を配る夜回りに参加。
朝5時、巨大なハローワーク「あいりんセンター」。
数百人の仕事を求める労働者の方たちが集まり、人手を求める業者(手配師)と交渉。話しがまとまると業者のバンに乗って現場へ向かいます。
2017年の企画展「命は創造をやめない」。この展覧会の取材では、原子力発電所事故で警戒区域となった街々を巡りました。
江戸時代から受け継がれた、福島県浪江町の「大堀相馬焼」。
20軒以上あった窯元たちは原発事故によって廃業や離散を余儀なくされました。
まだ町民が帰還できなかった2017年1月の浪江町。(野生の動物が街なかを徘徊するため、車との衝突が多く発生していました。)
この2か月後、町の東側が警戒区域解除となり、現在までに900人ほどの町民が戻り住んでいます。ただし大堀相馬焼の窯元があった大堀地区は、現在も帰還困難区域となっています。
大堀相馬焼協同組合の組合長、小野田さん。
この頃はいわき市に避難し、仮設の工房で作陶をしていました。現在は本宮市に移り住み、窯を再開しています。
道中に立ち寄った、第一原発が立地する大熊町。山寄りの地区は、花巻とよく似たのどかな風景が広がっています。でも、見える限りのどの家にも、誰も住んでいません。
ある日突如、帰ることが出来なくなった我が家。
通行は可能だけれど、線量が高いため車を降りてはいけないエリア。
大熊町は町の中心部が帰還困難区域であるため、町内の比較的線量の低い別の地域に、新しく小さな町を作ろうと現在取り組んでいるそうです。
犬や猫の命を見つめるフォトジャーナリスト、児玉小枝さんの写真展「君といたい」。2016年に開催しました。
人の都合によって殺処分され、命を奪われる動物たち。
あるいは再び人の手によって、そこから救い出される動物たち。
この時は岩手県内の保健所や、動物保護団体を訪ねました。
誰かの家族として暮らしてきた犬が、こんな場所に入れられる。
そんな残酷なことをさせるのが、私たち人です。
そして、かつては保健所に持ち込まれた犬や猫のほとんどが、生きてこの施設を出ることはありませんでした。
民間と行政のさまざまな取り組みによって、近年殺処分の数は大きく減りつつあります。
犬を二酸化炭素によって窒息死させる箱。数年前から使っていないとのことでした。
そしてこちらは、岩手県の先駆的な動物保護団体「動物いのちの会いわて」の保護施設。
里親を待つ何百頭もの動物たち。大勢のボランティアが、休む間もなく動き続けます。
こうした人たちの絶え間ない努力によって、動物たちの命は繋がれていきます。
里親希望者と話す、代表の下机都美子さん。
こうした様々な取材を経て、一つの展覧会が形になっていきます。
なぜ、知的な障害などのある作者の作品以外にも、こんなふうにいろんなテーマの展示に力を入れるのでしょうか。それは、知的な障害のある人が大切にされる社会を目指すだけでは、それさえも実現できないと考えるからです。
どんな人の存在も大切にされるべきなのは、どんな命も同じ命だからです。そもそも、そのことがわかっていなければ始まりません。
そのことがみんなにわからないうちは、どれほど訴えても命を差別する人はかならず残り続けるでしょう。差別の理由なら世の中にいくらでもあります。
それを本当に克服するには、みんなが命を意識して、命はすべて同じだと実感できるようになることが必要なのです。自分の命も、誰かの命も、変わりがないと。
るんびにい美術館の展覧会の狙いは、いつもそこにあります。
見知らぬ誰かの命が、自分の命とつながっている。自分の命と同じだと感じられる。
そのきっかけとなる場所でありたい。
るんびにい美術館が〈命のミュージアム〉と名乗るのは、そのためです。
(アートディレクター 板垣崇志)